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ピッコロシアターの機関紙「into」に、「メトミミトヤミ」公演に寄せて、小泉八雲の研究者・翻訳者として有名な池田雅之さん(早稲田大学教授・同国際言語文化研究所所長)が、ご寄稿くださいました。とても素敵で嬉しいのでご紹介します。

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 八雲とセツの「ヨキモノ」を求めて──「メトミミトヤミ」公演に寄せて
早稲田大学教授・同国際言語文化研究所所長 池田雅之
 
角ひろみ作、鈴木田竜二演出による「メトミミトヤミ─小泉セツと八雲の怪談─」(兵庫県立ピッコロ劇団第55回公演)がいよいよ幕開けとなる。日本人妻小泉セツの視点から、作家である夫、ラフカディオ・ハーン=小泉八雲との日々とその終わり、『怪談』の誕生などが描かれるという。『怪談』は八雲の作品には違いないが、妻セツの助けなしに完成はありえなかった。
 角ひろみさんの台本は、セツになり代わって、ハーンの異界探訪に共に出かけ、その世界の「ヨキモノ」を現出させようとする。その「ヨキモノ」とは何か。ハーンの描く、目に見えぬお化けや幽霊のことか。お化けや幽霊が異界から発信する私たち世人への伝言か。あるいは、幽界の「ヤミ」に遊ぶ、セツとハーンの二人の抜き差しならぬ関係を指してのことか。
「二人の間には、今を生きる私たちに気づきを与えてくれるヨキモノが、とても多く存在します」と台本作者はいう。私たちはこの芝居から何か「ヨキモノ」の気づきを得られるであろうか。
 皆さんは、「メトミミトヤミ」というカタカナ表記のタイトルに不思議な感覚を覚えるであろう。「メトミミトヤミ」という記号は、この芝居の仕掛けを解く鍵である。あえて禁を犯して謎解きをすれば、「メ」は「目」であり、夜な夜な、セツの怪談の語りに目を凝らして、聴き入るハーンの「目」のことだろう。
 しかし、両眼ともきわめて視力が弱かったハーンに見えていたものは、目の前のセツの姿というより、魑魅魍魎の幻影だったかもしれない。その「目に見えないモノ」の出現は、しかしながら、ハーンにとって「ヨキモノ」の顕れだと思われたに違いない。
 「ミミ」は、言うまでもなう、「耳」である。ハーンはセツの日本語による語りに耳を澄ました。目の悪いハーンは、聴力においてはひときわ抜きんでていた。しかし、ハーンの日本語の聴取力は、セツの語りを聴き取るには充分であったとは思われない。ハーンは「ミミヲスマシ」て、セツの口吻から生ずる「ヨキモノ」の小さな声をキャッチし続け、創作に生かそうと努めた。
 セツとハーンの以心伝心による拙い言葉のキャッチボールは、不可思議というより奇跡としかいいようがない。二人の語り、語られる緊迫した様子は、セツの『思い出の記』(拙訳『日本の面影Ⅱ』に収録)に詳しく描かれている。セツの口からハーンの耳へ、耳からハーンの身体へ、言葉は想像力により、増殖しながら、ハーンの魂の中を駆け巡る。
 「ヤミ」は「闇」のことであるが、それは二人の住んだ東京や松江のいわゆる<化物屋敷>の「闇」のことであろう。あるいは、ハーンの魂の「闇」(無意識)でもあるだろう。そこから顕現してくるのものは、「目に見えないモノ」の姿であり、聴こえてくるものは、「目に見えないモノ」のかそけき声であろう。
 私たちは、今日、その目に見えぬ「ヨキモノ」の姿、「ヨキモノ」の小さな声に、角ひろみさんの紡ぐ「メトミミトヤミ」の科白を通して、立ち合うことになる。
 
池田雅之(いけだまさゆき)
早稲田大学教授・同国際言語文化研究所所長。専門は比較文学、比較基層文化論。著書に『ラフカディオ・ハーンの日本』(角川文庫)、『100分de名著 小泉八雲 日本の面影』(NHK出版)、『イギリス人の日本観』『複眼の比較文化』(以上、成文堂)他。編著に『古事記と小泉八雲』、『お伊勢参りと熊野詣』(以上、かまくら春秋社)、翻訳にラフカディオ・ハーン『新編 日本の面影』、『新編 日本の面影Ⅱ』、『新編 日本の怪談』(以上、角川ソフィア文庫)、T・Sエリオット『キャッツ』(ちくま文庫)他。NPO法人鎌倉てらこや理事長を経て、現在、顧問。



この写真は、私が台本を書く前に、東京・雑司ヶ谷霊園に眠る八雲と妻セツの墓前へ詣った時のものです
 
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掲載いただきました HOME 来週から「メトミミトヤミ」公演です!
プロフィール
HN:
角ひろみ
年齢:
43
HP:
性別:
女性
誕生日:
1974/09/20
自己紹介:
メールはこちら

母 劇作家 演出家

兵庫県尼崎市出身
2006年夏より岡山県岡山市在住

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1995年 芝居屋坂道ストア旗揚げ
関西を中心に東京公演なども行いつつ活動。
劇場の企画・提携公演や数々の演劇祭などに選出。

1999年  「あくびと風の威力」で第4回劇作家協会新人戯曲賞佳作・北海道知事賞 受賞
2003年 「裏山。」で第10回OMS戯曲賞 最終選考 
2004年 「木造モルタル式青空」で第11回OMS戯曲賞 最終選考
2005年 芝居屋坂道ストア解散
2007年 「螢の光」で第4回近松門左衛門賞 受賞
2014年 「宝島」で第14回AAF戯曲賞 最終選考
2014年 「狭い家の鴨と蛇」で第20回劇作家協会新人戯曲賞 受賞
2014年 「囁谷シルバー男声合唱団」で第59回岸田國士戯曲賞 最終選考
2015年 第16回岡山芸術文化賞 準グランプリ 受賞

2010年~  出産以降、主に劇作のみで活動。
関西・東京・岡山などの多くのカンパニーに台本を書き下ろしている。

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○主な劇作

「あくびと風の威力」(第4回劇作家協会新人戯曲賞佳作・北海道知事賞 受賞)
「暮唄と日曜アンファイナル」(伊丹アイホール ハイスクールプロデュース)
「裏山。」(第11回OMS戯曲賞 最終選考)
「木造モルタル式青空」(第12回OMS戯曲賞 最終選考)
「螢の光」(第4回近松門左衛門賞 受賞)
「逃げ水」(岡山アートファーム・静岡SPAC共同製作)
「傘がない」「手がない」(男性一人芝居・連作)
「地中」(KAVCプロデュース)
「貧乏ネ申」(男性二人芝居)
「虎と月」~中島 敦「山月記」から10年後~ 原作/柳広司(ピッコロ劇団)
「宝島」(第14回AAF戯曲賞 最終選考)
「狭い家の鴨と蛇」(方丈記プロジェクト)(第20回劇作家協会新人戯曲賞 受賞)
「囁谷シルバー男声合唱団」(演劇集団円 第59回岸田國士戯曲賞 最終選考)
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